
「WaterTech(ウォーターテック)」という言葉をご存じでしょうか。
名前からなんとなく「水に関するテクノロジーなのだろう」と想像することはできます。浄水技術や水道インフラ、水不足を解決する技術などを思い浮かべる人も多いかもしれません。
私自身、WaterTechについて調べ始めたときは、まさにそのようなイメージを持っていました。以前、分散型水循環システムを開発するWOTAについて調べたこともあり、WaterTechと聞いて最初に思い浮かべたのは、上下水道や水不足、災害時の断水といった「私たちの生活を支える水」の世界です。
ところがWaterTechについてもう少し広く調べていくと、まったく違う水の世界が見えてきました。
それが、産業を支える水です。
工場では製品をつくるために大量の水が使われています。経済産業省によれば、日本の水需要を取水量ベースで見ると、工業用水は全体の16%を占めています。私たちが家庭で使う生活用水だけでなく、ものづくりの現場でも水は欠かすことのできないインフラなのです。
なかでも興味深いのが、半導体です。
半導体の製造工程では、微細な汚れや不純物を取り除くために、極めて高い純度まで処理された「超純水」が使われています。普段の生活ではほとんど意識することがありませんが、私たちが使っているスマートフォンやパソコン、その先にあるAIの成長を支える半導体産業の裏側にも、「水」の技術が存在しているのです。
そう考えると、WaterTechという言葉から見えてくる景色は大きく変わります。
一方には、蛇口から安全な水を届け、使った水を処理し、災害や水不足から暮らしを守るためのWaterTechがあります。もう一方には、半導体をはじめとする高度なものづくりを成立させ、産業の成長を支えるWaterTechがあります。
同じ「水」を扱っているにもかかわらず、そこで解決しようとしている課題も、必要とされる技術も、活躍している企業も大きく異なります。
この記事では、WaterTechを単なる「水処理技術の総称」として紹介するのではなく、生活を支える水と、産業を支える水という「2つの世界」から見ていきます。
この2つの世界を知ると、毎日何気なく使っている水だけでなく、社会インフラや半導体産業、そしてそこに資金が集まる理由まで、少し違った角度から見えてくるはずです。
WaterTechとは?「水」にまつわる課題を技術で解決する産業
WaterTechとは、その名前の通り「Water(水)」と「Technology(技術)」を組み合わせた言葉で、水に関するさまざまな課題をテクノロジーによって解決しようとする領域を指します。
ただし、WaterTechを「水をきれいにする技術」とだけ捉えてしまうと、その世界の一部しか見えません。
私たちが水を利用するまでには、川や地下水などから水を取り、必要な水質まで処理し、それを家庭や工場へ届けるという工程があります。そして使い終わった水についても、回収して処理し、環境へ戻したり、もう一度利用できる水として再生したりする技術があります。国土交通省も、下水処理場で処理した水をさらに再生し、農業用水や事業所の雑用水などとして再利用する取り組みを紹介しています。
さらに、水そのものが不足している地域では海水を淡水化する技術が必要になりますし、水質をセンサーで監視する技術、工場から出る排水を処理・再利用する技術などもWaterTechの世界に含まれます。経済産業省の水関連資料でも、日本の水技術として水再利用、高度水処理、海水淡水化、高効率ポンプなど幅広い領域が示されています。
つまりWaterTechは、一つの製品や技術を指す言葉ではありません。
水を「つくる」「届ける」「使う」「回収する」「再利用する」という一連の流れの中で生まれる課題を、技術によって解決していく大きな産業領域と考えると分かりやすいでしょう。
そして、この広いWaterTechの世界を理解するときに、一つ知っておくと面白い視点があります。
それが、「誰のための水なのか」という視点です。
私たちが毎日使っている水道水のように、人々の暮らしを支えるための水があります。安全な水を家庭へ届け、使い終わった水を処理し、災害が起きてもできるだけ生活を維持できるようにする。こちらは、いわば「生活を支えるWaterTech」の世界です。
一方で、工場や製造業のために使われる水があります。経済産業省が定義する「工業用水」も、製造業など工業のために供給される水です。工場まで水を届けるインフラだけでなく、製品や製造工程によっては、さらに高度な水処理が必要になります。
その象徴ともいえるのが、半導体製造に使われる「超純水」です。
つまり、WaterTechという大きな世界を眺めてみると、そこには私たちの暮らしに直結する「生活を支える水」と、普段はほとんど目にすることのない「産業を支える水」という、性格の異なる二つの世界が存在していることが分かります。
もちろん、実際のWaterTech産業を完全に二つに分けられるわけではありません。水の再利用や排水処理のように両方の世界にまたがる技術もあります。それでも、この二つの視点から眺めてみると、非常に広いWaterTechという産業の全体像がぐっと理解しやすくなります。
そして面白いのは、この二つの世界が、いまそれぞれ別の理由から大きな変化を迎えていることです。
生活を支える水の世界では、インフラの老朽化や人口減少、自然災害、水不足などを背景に、これまでとは違う水インフラのあり方が模索されています。一方、産業を支える水の世界では、AIの普及や半導体需要の拡大によって、高度な水処理技術の重要性が改めて高まっています。
同じ「水」なのに、なぜこれほど違う変化が起きているのでしょうか。
まずは、私たちにとって最も身近な「生活を支えるWaterTech」の世界から見ていきましょう。
一つ目のWaterTech──私たちの「生活」を支える水
WaterTechの一つ目の世界は、私たちの暮らしに最も近い「生活を支える水」です。
蛇口をひねれば安全な水が出て、お風呂やキッチン、トイレなどで使った水は下水道を通って処理される。日本で暮らしていると、この仕組みを特別なテクノロジーとして意識する機会はほとんどありません。しかし、その裏側では、ダムや河川から水を取り入れ、浄水場で処理し、長い水道管を通して各家庭へ届け、さらに使い終わった水を回収して処理するという巨大なシステムが動いています。
日本の近代水道は、こうした「一か所で大量の水を処理し、広い地域へ届ける」という集中型の仕組みを発展させることで、多くの人が安全な水を利用できる社会を実現してきました。これは非常に効率的で優れたインフラであり、今後も私たちの生活を支える中心的な仕組みであることに変わりはありません。
一方で、社会の側が変わり始めています。
人口が増え、都市が拡大していた時代に整備された水道インフラを、人口が減少していく時代にどう維持していくのか。長い年月をかけて整備された水道管や施設の老朽化にどう対応するのか。そして地震や豪雨などの自然災害が起きたとき、安全な水をどう確保するのか。いま日本の水インフラでは、「水をきれいにする技術」だけでは解決できない課題が生まれています。
世界まで視野を広げれば、水を取り巻く状況はさらに複雑です。安全な水道インフラが十分に整備されていない地域がある一方、人口増加や都市化、気候変動などを背景に、水資源そのものをどう確保するかが重要な課題となっている地域もあります。
だからこそ、生活側のWaterTechでは、従来の上下水道を高度化する技術だけでなく、水を再利用する技術、海水から淡水をつくる技術、水質や水道設備の状態をデータで把握する技術など、さまざまなアプローチが生まれています。
重要なのは、これらが「今の水道をすべて新しい技術に置き換える」という話ではないことです。
これまで築いてきた水インフラを維持しながら、従来の仕組みだけでは対応しにくくなっている場所や課題を、新しい技術でどう補っていくのか。そこに、生活を支えるWaterTechの大きな役割があります。
水を「運ぶ」だけでなく「循環させる」という発想
こうしたWaterTechの中でも、これまでの水インフラとは少し異なる発想から生まれているのが「分散型水循環」です。
従来の上下水道では、大きな施設で処理した水を長い水道管によって各地域へ届け、使い終わった水は再び下水道を通して処理施設へ集めます。これに対して分散型水循環では、地域や建物など、より小さな単位で使った水を浄化し、その場で再利用することを目指します。
つまり、水を遠くまで「運ぶ」ことだけを前提にするのではなく、必要な場所で「循環させる」という選択肢を加える考え方です。
この違いは、災害が起きたときに考えると分かりやすいかもしれません。大規模な水道網の一部が被害を受ければ、その先にある地域へ水を届けられなくなる可能性があります。一方、地域や施設ごとに水を循環できる仕組みがあれば、既存の水道が復旧するまでの間も、一定の生活用水を確保できる可能性があります。
ただし、分散型水循環の価値は防災だけではありません。
人口が減少する地域で長大な水道管を維持し続けることが難しくなった場合や、そもそも大規模な上下水道を整備することが難しい地域でも、「その場所で水を処理し、循環させる」という考え方が新しい選択肢になる可能性があります。
なぜ地震などの災害で断水が起こるのか、そして分散型水循環が従来の水道インフラをどのように補完できるのかについては、「災害時に水が止まる理由|分散型水循環インフラという新しい選択肢」で詳しく解説しています。
そして、この分散型水循環という考え方を実際の社会へ広げようとしている日本企業の一つが、WOTAです。
WOTAは、水をその場で浄化・再利用する小規模分散型の水循環システムを開発しています。災害時などに利用できる水循環型シャワーから、住宅向けの水循環システムまで、従来の上下水道だけに依存しない水利用の実現を目指している企業です。
ここで重要なのは、WOTAを単なる「高性能な浄水器をつくる会社」として見ないことです。
WOTAが挑戦しているのは、水をきれいにする技術だけではなく、「水は大きな施設で処理し、水道管で運ぶもの」という従来の水インフラに、別の選択肢を加えることです。だからこそ同社を見るときには、製品そのものだけでなく、その背景にある人口減少や災害、水インフラの老朽化といった社会の変化まで見る必要があります。
WOTAの事業内容や、なぜこうした企業に大きな資金が集まっているのかについては、「WOTAって知ってますか?調べてみると、『上下水道』の見方が変わりました|事業内容や資金調達を解説」で詳しく紹介しています。
ここまでが、私たちにとって身近な「生活を支えるWaterTech」の世界です。
上下水道を維持する、水を再利用する、水不足に対応する、災害時にも水を確保する。こうして見ると、WaterTechが私たちの日常生活を支える技術であることは比較的イメージしやすいでしょう。
しかし、WaterTechにはもう一つ、私たちが普段ほとんど意識することのない大きな世界があります。
半導体をはじめとする「産業」を支える水です。
次は、蛇口から出てくる水とはまったく違う、もう一つのWaterTechを見ていきます。
二つ目のWaterTech──半導体などの「産業」を支える水
ここまで見てきたWaterTechは、上下水道や災害、水不足など、比較的私たちの生活からイメージしやすい世界でした。しかし、WaterTechについて調べていくと、もう一つ大きな市場があることに気付きます。それが、産業を支える水です。
製造業では、製品そのものの材料としてだけでなく、設備の冷却や洗浄、製造工程で発生する排水の処理など、さまざまな場面で水が使われています。そのため工場にとって水は、電力や物流と同じように、生産活動を支える重要なインフラの一つです。そして産業が高度化するほど、そこで求められる水の品質も高度になっていきます。
その象徴ともいえるのが、半導体産業です。

半導体は、スマートフォンやパソコン、自動車、データセンターなど、現代社会を支えるさまざまな製品に使われています。さらに生成AIの普及によって高性能な半導体への需要が拡大し、世界各地で半導体工場への大型投資が進んでいます。しかし、半導体工場を建設するために必要なのは、製造装置や電力だけではありません。大量の、極めてきれいな「水」も必要なのです。
半導体製造に欠かせない「超純水」とは
半導体の製造工程では、シリコンウエハーの表面を何度も洗浄します。半導体の回路は極めて微細であるため、水の中にわずかな不純物が含まれているだけでも、製品の品質や歩留まりに影響する可能性があります。そのため、一般的な水道水をそのまま使うことはできません。
そこで使われるのが「超純水」です。超純水とは、水道水などに含まれるイオン、有機物、微粒子、微生物といった不純物を極限まで取り除いた、非常に純度の高い水です。
ここが、生活を支えるWaterTechとの大きな違いでもあります。私たちが普段利用する水道水では、人が安全に利用できる水を安定して供給することが重要です。一方、半導体工場で使われる水には、人間にとって安全であることとは別の次元で、製造工程に影響を与える微量な不純物まで取り除くことが求められます。つまり、同じ「水をきれいにする」という技術でも、誰が、何のために使う水なのかによって、求められる技術はまったく異なるのです。
WaterTechという言葉から上下水道や水不足を想像していた人にとって、半導体製造まで水処理技術が深く関わっていることは、少し意外かもしれません。しかし、この世界を知ると、AIや半導体産業を見る景色も変わってきます。
生成AIの利用が広がれば、高性能な半導体への需要が増えます。その需要に対応するため半導体メーカーが工場への設備投資を増やせば、製造装置だけでなく、工場を支える電力や水にも需要が生まれます。そして、その水を半導体製造に利用できるレベルまで処理する超純水設備にも投資が必要になります。
つまり、AI・半導体市場の成長は、半導体メーカーや製造装置メーカーだけに恩恵をもたらすわけではありません。その巨大な産業を裏側で支えているWaterTech企業にも、成長機会が生まれる可能性があるのです。
栗田工業・オルガノ──半導体産業を「水」で支える企業
日本には、この産業側のWaterTechで長い歴史を持つ企業があります。代表的なのが、栗田工業やオルガノです。
両社は水処理設備や水処理技術を幅広く展開していますが、半導体などの電子産業向けに超純水を供給するシステムも重要な事業領域となっています。半導体産業というと、半導体メーカーや製造装置メーカーに目が向きがちですが、その生産工程を成立させるためには高度な水処理技術も欠かせません。WaterTech企業は、表からは見えにくいところで半導体産業の成長を支えているのです。
ここで興味深いのは、WOTAと栗田工業・オルガノが、同じWaterTechという言葉で括られながら、まったく異なる市場で成長していることです。
WOTAが向き合っているのは、人口減少や水道インフラの老朽化、災害時の断水、水不足といった社会課題です。既存の上下水道だけでは対応しにくい場所に対して、「その場で水を循環させる」という新しいインフラの選択肢をつくろうとしています。
一方、栗田工業やオルガノが支えているのは、すでに巨大な産業として成立している半導体や電子産業です。半導体メーカーが生産能力を増強し、新しい工場を建設すれば、その工場で必要となる高度な水処理設備への需要も生まれます。同じWaterTechでも、片方では社会インフラが抱える課題を新しい仕組みで解決しようとする動きがあり、もう片方では成長する産業を高度な水処理技術で支える動きがあるわけです。
この違いは、企業に「お金が集まる理由」を考えるうえでも重要です。
WOTAのようなスタートアップには、まだ十分に普及していない新しい水インフラを社会に実装していく将来性に対して、未上場市場から資金が集まります。一方、栗田工業やオルガノのように、すでに顧客や市場、収益モデルが確立している上場企業では、半導体メーカーの設備投資拡大などが将来の業績期待につながり、それが株式市場での評価にも反映されていきます。
ただし、これは「生活側はまだ市場がなく、産業側だけに確かな需要がある」という意味ではありません。水道インフラの老朽化や災害、水不足も、すでに現実に起きている課題です。違うのは、その課題を解決する仕組みやビジネスが、どこまで社会に定着しているかという点です。
この視点を持つと、資金調達ニュースや株式市場の動きも少し違って見えてきます。スタートアップへの資金調達では、「これから社会に広がるかもしれない新しい仕組み」に資金が向かうことがあります。一方、上場企業では、「すでに存在する巨大な需要が、今後どれだけ企業の利益につながるのか」が評価されます。
WaterTechという一つの産業の中に、こうした異なる成長の形と資金の流れが同時に存在していることも、この分野の面白さの一つでしょう。そして、生活側と産業側を並べてみると、「同じ水なのに、ここまで違うのか」というWaterTechの全体像が、さらに見えやすくなります。
次は、この「生活を支える水」と「産業を支える水」の違いを、一度整理してみましょう。
同じWaterTechでも、2つの世界はこれだけ違う
ここまで、WaterTechを「生活を支える水」と「産業を支える水」という二つの視点から見てきました。
同じ水を扱う技術でありながら、この二つの世界では、解決しようとしている課題も、顧客も、求められる技術も大きく異なります。一度整理してみましょう。
| 生活を支えるWaterTech | 産業を支えるWaterTech | |
|---|---|---|
| 主な水 | 水道水・生活排水など | 工業用水・超純水など |
| 主な利用者 | 家庭・地域・自治体など | 工場・製造業など |
| 主な課題 | 老朽化・人口減少・災害・水不足 | 高度な水質要求・生産能力拡大・安定供給 |
| 主な技術 | 上下水道、水再利用、分散型水循環など | 超純水製造、排水処理・再利用など |
| 代表的な企業例 | WOTAなど | 栗田工業・オルガノなど |
| 成長を後押しする変化 | インフラ老朽化、防災、水不足など | AI・半導体需要、工場の設備投資など |
| 資金が向かう先 | 新しい仕組みへの期待 | 既存需要の成長への期待 |
こうして並べてみると、WaterTechが単に「水をきれいにする産業」ではないことがよく分かります。
生活側で求められているのは、これまで築いてきた上下水道を維持しながら、人口減少や災害、水不足といった新しい課題にどう対応していくかという変化です。その一つとして、水をその場で循環させる分散型水循環のような新しい仕組みが生まれています。
一方、産業側では少し事情が異なります。半導体をはじめとする製造業では、すでに水を大量に利用する産業構造が存在しており、産業の成長とともに、より高度な水処理や安定供給が求められています。特に半導体では超純水が製造工程に欠かせないため、AI・半導体への設備投資が拡大すれば、その裏側にある水処理技術にも需要が生まれます。
つまり、一方では「これまでの水インフラをどう変えていくか」が問われ、もう一方では「成長する産業を水によってどう支えるか」が問われている。同じWaterTechという言葉の中で、異なる変化が同時に起きているのです。
水だけでなく、「お金の集まり方」も違う
この二つの世界をFundriveの視点から見ると、もう一つ興味深い違いがあります。
それが、企業へのお金の集まり方です。
生活側の例として紹介したWOTAは、分散型水循環という新しいインフラのあり方を社会に広げようとしているスタートアップです。課題そのものはすでに存在していますが、分散型水循環がどこまで普及し、既存の上下水道とどのような形で共存していくのかは、まだこれからつくられていく部分が大きく残されています。
だからこそ、こうした企業には「すでに大きな利益を生み出しているか」だけではなく、その技術や仕組みが将来どこまで社会に広がるのかという可能性を見て、投資家から資金が集まります。
一方、栗田工業やオルガノが向き合う半導体向けの水処理市場では、「半導体をつくるために超純水が必要」という需要そのものがすでに確立しています。半導体メーカーが新しい工場を建設し、生産能力を拡大すれば、その設備投資の一部が水処理設備やサービスへの需要につながります。
そのため上場企業である両社を見る場合には、新しい市場が生まれる可能性だけではなく、半導体産業の成長がどれだけ売上や利益につながっていくのかという視点から株式市場の評価を考えることができます。
ただし、ここで「WOTAは未来の市場、栗田工業やオルガノは現在の市場」と単純に分けてしまうのは少し違います。
水道インフラの老朽化や災害、水不足も、すでに現実に存在する大きな課題です。違うのは課題が存在するかどうかではなく、その課題を解決するビジネスの形がどこまで確立され、社会に普及しているかです。
新しい仕組みを社会に実装しようとする企業には、その将来性に賭ける資金が集まる。一方、すでに確立された市場で成長する企業には、将来の利益拡大を期待した資金が株式市場から集まる。
WaterTechを技術だけでなく「お金の流れ」から見てみると、同じ水を扱う企業であっても、投資家が何に期待しているのかまで違って見えてきます。
なぜ今、WaterTechが注目されているのか
ここまで見てくると、WaterTechが注目されている理由を「世界的な水不足が深刻だから」という一つの説明だけで捉えるのは、少しもったいないことが分かります。
もちろん、水不足や気候変動はWaterTechを成長させる大きな要因です。しかし、日本では人口減少や上下水道の老朽化、自然災害への備えという課題があり、その先では分散型水循環のような新しいインフラの形が模索されています。
その一方で、まったく別の場所からもWaterTechへの需要が生まれています。それが、AIや半導体をはじめとする産業の成長です。
生成AIの普及によって高性能な半導体への需要が増えれば、半導体メーカーは生産能力を拡大するために工場へ投資します。その工場を動かすには製造装置や電力だけでなく、大量の水と高度な水処理技術も必要になります。
一見すると、人口減少による水道インフラの問題と、AI・半導体市場の成長にはほとんど接点がないように見えます。しかしWaterTechという視点から眺めてみると、「生活を支える水」と「産業を支える水」の両側で、同時に大きな変化が起きていることが分かります。
そして、この構造こそがWaterTechを面白くしています。
社会課題を解決するために必要とされる技術がある一方で、成長産業をさらに成長させるために必要とされる技術もある。水は私たちが生きるために欠かせない資源であると同時に、社会インフラや最先端産業を動かすための基盤でもあります。
だからこそWaterTechは、単なる「水処理業界」という枠だけでは捉えきれません。
水不足、インフラ老朽化、災害、人口減少、半導体、AI。一見すると別々に見える社会の変化を、「水」という一本の線でつなげて見ることができる産業なのです。
まとめ|WaterTechを知ると、「水」の見え方が変わる
WaterTechについて調べ始めたとき、「水のテクノロジー」と聞いて、上下水道や浄水、水不足への対策を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。
しかし、その世界を少し広げてみると、水は私たちの生活を支えているだけではありません。半導体をはじめとする高度な製造業の裏側でも、欠かすことのできない産業インフラとして使われています。
一方には、老朽化する水道インフラや災害、水不足と向き合いながら、新しい水の使い方を模索する世界があります。もう一方には、AI・半導体産業の成長とともに、より高度な水処理技術が求められる世界があります。
生活を支える「水」と、産業を支える「水」。
この二つを並べて見ることで、WaterTechという産業の広さだけでなく、なぜ今この分野で新しい技術が生まれ、企業へ資金が集まっているのかも見えやすくなります。
そしてFundriveでこれから注目していきたいのは、まさにその「変化」です。
水道はこれからどう変わっていくのか。分散型水循環は社会にどこまで広がるのか。AI・半導体市場の成長によって、超純水をはじめとする水処理技術にはどのような需要が生まれるのか。
WaterTechという言葉を知ることは、単に一つの業界を知ることではありません。
私たちが毎日使っている「水」から、社会インフラや最先端産業で起きている変化までを、一つのつながりとして見ることなのだと思います。
もっと知りたい方へ
生活を支えるWaterTechの中でも、災害時の断水や水道インフラの老朽化、分散型水循環という新しい考え方については、「災害時に水が止まる理由|分散型水循環インフラという新しい選択肢」で詳しく解説しています。
また、分散型水循環を社会実装しようとしているWOTAについては、「WOTAって知ってますか?調べてみると、『上下水道』の見方が変わりました|事業内容や資金調達を解説」で、事業内容や資金調達の背景まで掘り下げています。
WaterTechや水ビジネス全体について、より詳しく知りたい方は、経済産業省が公開している水ビジネス関連の調査・資料も参考になります。
そして、もう一つのWaterTechである「超純水」については、「超純水とは?AI・半導体時代を支えるWaterTech企業と市場を徹底解説」で、半導体製造に超純水が欠かせない理由から、栗田工業・オルガノなどのWaterTech企業、AI・半導体への投資が水処理産業へ波及する仕組みまで詳しく解説しています。
