災害時に水が止まる理由|分散型水循環インフラという新しい選択肢

日本では定期的に大規模な地震や災害が発生します。

災害が起きるたびに、私たちは改めて「水」の大切さを実感します。停電は比較的早く復旧しても、水道は数日、時には数週間にわたって使えなくなることがあり、その間は飲み水だけでなく、トイレや手洗い、洗濯、お風呂まで、日常生活のあらゆる場面に大きな影響が及びます。

では、なぜ地震や災害では、これほど長期間にわたって断水が続いてしまうのでしょうか。

多くの人は「水道管が壊れたから」と考えるかもしれません。しかし実際には、それだけでは説明できません。背景には、日本が100年以上かけて築き上げてきた水道インフラの仕組みそのものがあり、その仕組みは災害だけでなく、老朽化や人口減少といった新たな課題にも直面しています。

こうした課題を解決する新しい選択肢として、近年注目されているのが分散型水循環インフラです。課題が根深いゆえに、この分野には世界中の投資家から資金が集まり、新しい技術やスタートアップが次々と生まれています。

この記事では、災害時に断水が起きる理由を出発点に、日本の水インフラが抱える構造的な課題、そして分散型水循環インフラという新しい考え方について解説します。


なぜ地震や災害で水が止まるのか──断水が起きる仕組みと水道インフラの課題

「地震で水道管が壊れたから断水した。」

ニュースではよく耳にする説明ですが、実際にはそれだけが理由ではありません。

私たちが普段使っている水道は、川やダムから取水した水を浄水場で処理し、配水池を経由して、何百キロにも及ぶ水道管を通って各家庭へ届けられています。つまり、水道は一つの施設だけで成り立っているのではなく、多くの設備が連携して初めて機能する巨大なインフラなのです。

そのため、地震によって浄水場や配水池が被害を受けたり、送水管や水道管のどこか一か所でも大きな損傷が発生したりすると、その先の地域では広い範囲で断水が起こる可能性があります。さらに、水道は修理して終わりではなく、漏水の有無を確認し、水質の安全を確かめながら少しずつ供給を再開していく必要があるため、停電よりも復旧まで時間がかかるケースが少なくありません。

しかし、問題は災害時だけではありません。

日本では高度経済成長期に整備された水道管の老朽化が全国で進み、更新が必要な施設は年々増えています。一方で、人口減少によって水道料金収入は減少し、多くの自治体では更新に必要な費用や人材の確保が難しくなっています。つまり現在の水道インフラは、「災害への脆弱性」「老朽化」「維持管理の担い手不足」という複数の課題を同時に抱えているのです。

こうした状況を受けて、「一か所で大量の水をつくり、広い地域へ送り届ける」という従来の集中型インフラだけに頼るのではなく、地域ごとに水を循環・再利用する分散型水循環インフラという新しい考え方が世界で注目され始めています。

では、この分散型水循環インフラとは、どのような仕組みなのでしょうか。次の章では、その考え方と、なぜ今あらためて注目されているのかを見ていきます。

分散型水循環インフラという新しい選択肢

では、こうした課題を解決する方法はないのでしょうか。

その答えの一つとして近年注目されているのが、分散型水循環インフラという考え方です。

私たちが現在利用している水道は、浄水場で大量の水をつくり、長い水道管を通して広い地域へ送り届ける「集中型」の仕組みを前提としています。この方式は、多くの人へ安定して水を供給できる優れた仕組みであり、高度経済成長期以降の日本を支えてきた社会インフラそのものと言っても過言ではありません。

しかし、その一方で、巨大なネットワークであるからこそ、一部の設備や基幹となる送水管に障害が発生すると、広い地域へ影響が及んでしまうという弱点も抱えています。また、水道管の老朽化が全国的に進む現在では、この膨大なネットワークを維持・更新し続けるために、多額の費用と長期的な投資が必要になっています。

そこで生まれたのが、「必要な場所で水を循環させる」という新しい発想です。

分散型水循環インフラとは、地域や施設ごとに水を浄化・再利用することで、長距離の水道網だけに依存しない水利用を実現しようとする仕組みです。これまで「使って流す」ことが前提だった水を、地域の中で循環させながら何度も活用することで、水資源をより効率的に利用しようという考え方でもあります。

この仕組みは、「災害時でも水が使える技術」として紹介されることが少なくありません。しかし、その価値は災害対策だけにとどまりません。

例えば人口減少が進む地域では、水道管を維持するための費用が年々増え続ける一方で、それを支える利用者は減少しています。また世界に目を向ければ、安全な水道インフラが十分に整備されていない国や地域、水不足が深刻化している地域も数多く存在します。つまり、水の供給を一か所に集中させる仕組みだけでは対応しきれない社会課題が、世界中で顕在化し始めているのです。

だからこそ近年では、「水を運ぶ」ことだけではなく、「その場で水をつくり、その場で循環させる」という考え方が、新しい水インフラの姿として注目されるようになりました。

そして、この考え方を支えているのがWaterTechと呼ばれる技術です。排水を高度に浄化して再利用する水処理技術や、水質をリアルタイムで監視するIoT、小型化された浄水設備など、これまで大規模な施設でしか実現できなかったことを、小さな単位でも実現できる技術が次々と生まれています。

こうした技術革新を背景に、世界ではWaterTech市場への投資も拡大しています。水不足や気候変動、インフラ老朽化といった社会課題が深刻化するなか、水は単なる生活インフラではなく、技術によって解決できる成長市場としても注目されるようになりました。

では、投資家はこの市場のどこに将来性を感じているのでしょうか。

次の章では、世界と日本の市場動向を踏まえながら、なぜ今、分散型水循環インフラに多くの資金が集まっているのかを見ていきます。

なぜ今、分散型水循環インフラに投資が集まるのか

分散型水循環インフラが注目されている理由は、「災害に強いから」という一言では説明できません。

その背景には、水不足や気候変動、インフラ老朽化、人口構造の変化など、世界中で共通して進む社会課題があります。従来の大型インフラだけでは解決が難しい課題が増えるなかで、「水を運ぶ」だけではなく、「その場で水を循環・再利用する」という新しい発想に期待が集まるようになりました。

実際、水問題は世界規模で深刻化しています。WOTAが引用する国際的な予測では、2030年には世界人口の約40%が水不足の影響を受けるとされており、水の安定供給は食料やエネルギーと並ぶ重要な社会課題として位置付けられています。

こうした状況を受けて、世界ではWaterTechへの投資も拡大しています。投資家が期待しているのは、一つの製品ではありません。水不足への対応、老朽化したインフラの更新、災害への備え、さらには持続可能な都市づくりまで、一つの技術が複数の社会課題を同時に解決できる可能性に注目しているのです。

日本も例外ではありません。

高度経済成長期に整備された上下水道施設は更新時期を迎えていますが、人口減少によって水道料金収入は減少し、多くの自治体では更新費用や人材の確保が課題となっています。その一方で、気候変動による豪雨や地震などの自然災害は頻発しており、「これまでと同じ仕組みを維持するだけでは十分ではない」という認識が広がりつつあります。

こうした背景から、水を地域で循環・再利用する分散型システムは、防災だけでなく、持続可能なインフラを実現する選択肢として期待されるようになりました。経済産業省も、水需要の拡大やインフラ更新需要を背景に世界の水ビジネス市場は今後も成長が見込まれると整理しており、日本企業にとっても大きな成長機会があるとしています。

つまり、投資家が見ているのは「災害時に役立つ技術」ではありません。

これから数十年にわたって世界が直面する水問題を、どのような技術で解決していくのか。

その問いに対する一つの答えとして、分散型水循環インフラは大きな期待を集めています。そして、その考え方を実際の製品やサービスとして社会実装しようとしている代表的な企業が、日本発のスタートアップであるWOTAです。

次の章では、WOTAがどのような技術によって分散型水循環インフラを実現しようとしているのか、その取り組みを見ていきます。

分散型水循環を実現する企業「WOTA」

ここまで見てきたように、分散型水循環インフラは単なる構想ではなく、すでに社会実装へ向けた取り組みが始まっています。その代表例として挙げられるのが、日本発のスタートアップであるWOTA株式会社です。

WOTAが目指しているのは、「水道があること」を前提とした社会ではなく、「必要な場所で水を循環させながら利用できる社会」です。そのために開発されたのが、水をその場で再生しながら利用する独自の水循環システムであり、これまで大規模な浄水場や下水処理場で行われてきた高度な水処理を、小規模な設備でも実現しようとしています。

現在、WOTAは用途に応じて異なる製品を展開しています。

災害時や避難所などで活用される「WOTA BOX」は、持ち運び可能な水再生システムです。100リットルの水から排水の約98%を再生・循環利用できるため、断水が続く環境でもシャワーなどの生活用水を確保できるよう設計されています。大人2人で約15分あれば設営できる点も特徴で、能登半島地震をはじめ、実際の災害現場でも運用実績を積み重ねています。

一方で、家庭向けに開発が進められている「WOTA Unit」は、さらに大きな可能性を秘めています。家庭から出る生活排水の最大97%を再生し、入浴や洗濯、食器洗い、トイレ洗浄などへ再利用することで、上下水道への依存を大きく減らすことを目指したシステムです。災害時のレジリエンス向上だけでなく、人口減少やインフラ老朽化が進む地域における「小さな水インフラ」としても期待されています。

興味深いのは、WOTAが販売しているのは機械そのものではなく、「水インフラのあり方」だという点です。

これまで私たちは、「水は浄水場から送られてくるもの」という前提で暮らしてきました。しかしWOTAが提案しているのは、「使った水をその場で再生し、その場で使い続ける」という新しいインフラの考え方です。巨大なインフラを置き換えることが目的ではなく、集中型インフラだけでは対応しきれない課題を、小規模・分散型の技術で補完していこうという発想に、大きな特徴があります。

WOTAの事業内容や資金調達の背景については、以前公開した記事で詳しく解説しています。本記事では「分散型水循環インフラ」という考え方に焦点を当てていますので、WOTAがどのような課題を解決しようとしているのか、またなぜ多くの投資家から期待を集めているのかを知りたい方は、ぜひあわせてご覧ください。

水インフラの未来は「集中型」と「分散型」の共存へ

ここまで見てきたように、分散型水循環インフラは、従来の水道インフラに代わる仕組みを目指しているわけではありません。

現在の日本では、浄水場やダム、送配水管によって支えられる集中型インフラが、何千万人もの生活を支えています。この仕組みは今後も社会に欠かせない基盤であり、すべてを分散型へ置き換えることは現実的ではありません。

一方で、人口減少やインフラの老朽化が進み、さらに自然災害が頻発する時代においては、「一つの仕組みだけですべてを支える」という考え方にも限界が見え始めています。だからこそ近年は、集中型インフラを維持しながら、その弱点を分散型インフラで補完するという発想が広がりつつあります。

例えば、平常時は既存の水道を利用しながら、災害時には地域ごとに水を循環・再利用できる設備が稼働する。あるいは、水道管の更新が難しい地域では、小規模な水循環システムを組み合わせることで、持続可能な水利用を実現する。このように、集中型と分散型は対立する関係ではなく、それぞれの強みを活かしながら共存していく可能性が高いと考えられています。

実際、WOTAのようなスタートアップが目指しているのも、「水道をなくすこと」ではありません。水道インフラだけでは解決が難しい課題を、新しい技術によって補完し、より災害に強く、持続可能な社会を実現することです。近年では自治体だけでなく、警察や防災機関などでも導入が進み始めており、分散型水循環インフラは実証実験の段階から、社会実装のフェーズへと少しずつ歩みを進めています。

水は、蛇口をひねれば当たり前に出てくるものではありません。その背景には、100年以上かけて築き上げられた巨大なインフラがあり、今そのインフラは新しい時代に合わせた変化を求められています。

分散型水循環インフラは、その変化を支える選択肢の一つです。そして、その変化を支える技術や企業に世界中の投資が集まっていることは、「水」が単なる生活インフラではなく、社会課題を解決する成長分野として期待されていることを示しています。


まとめ

災害が発生するたびに、「なぜ断水はこれほど長く続くのだろう」と疑問に思う人は少なくありません。しかし、その背景をたどると、地震そのものだけではなく、日本の水道インフラが抱える構造的な課題が見えてきます。

そうした課題に対する新しい選択肢として注目されているのが、分散型水循環インフラです。地域ごとに水を循環・再利用するという発想は、防災だけでなく、人口減少やインフラ老朽化、水不足といった世界共通の課題に対する解決策としても期待されています。

今回の記事では生活インフラとしてのWaterTechを中心に取り上げましたが、水の技術はもう一つの大きな世界も支えています。半導体やAI産業に欠かせない「超純水」もまた、WaterTechの重要な領域の一つです。超純水がなぜ半導体製造に欠かせないのか、AI・半導体への投資が水処理産業へどう波及しているのかについては、「超純水とは?AI・半導体時代を支えるWaterTech企業と市場を徹底解説」で詳しく紹介しています。

WaterTech全体の姿や、生活インフラと産業インフラという2つの世界については、「WaterTechとは?生活を支える『水』と、半導体を支える『水』──2つの世界を徹底解説」で詳しく解説しています。あわせて読むことで、水を取り巻く技術や市場、そして資金調達の背景まで、より立体的に理解できるはずです。

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