
スタートアップの資金調達ニュースを見て、「まだ赤字なのに、なぜこれほど多くの資金が集まるのだろう」と疑問に思ったことはないでしょうか。
シリーズAやシリーズBを中心とした成長企業の多くは、利益よりも事業拡大を優先する段階にあります。そのため、赤字であること自体は珍しくありません。しかし、同じように赤字でも、その後に大きく成長する企業もあれば、思うように成長できない企業もあります。
では、その違いはどこにあるのでしょうか。
もちろん、その答えを事前に知ることはできません。未来は誰にも分からず、資金調達の時点で企業の成功や失敗を断言できる人はいないからです。
一方で、現在では黒字化を達成した企業を振り返り、「どのような投資を行い、どのように利益を生み出せる事業へ成長していったのか」を検証することはできます。
そこで今回は、メルカリ、Sansan、タイミーの3社を取り上げます。
この記事でお伝えしたいのは、「良い赤字」と「悪い赤字」を分類する方法ではありません。
黒字化までの過程を振り返りながら、市場環境やビジネスモデル、競争優位、経営判断、決算の推移を整理し、利益を生み出せる祖業は、どのように育っていくのかを読み解いていきます。
その共通点を知ることで、現在資金調達を行っているスタートアップを見る視点も変わってくるはずです。
もしこの記事を読み終えたあと、新しい資金調達ニュースを見たときに、「いくら調達したのか」だけではなく、「この会社は何を置き換えようとしているのか」「祖業は利益を生み出せる事業へ育ちそうだろうか」と考えられるようになれば、この記事の目的は達成できたと言えるでしょう。
スタートアップはなぜ赤字でも資金調達できるのか
上場企業へ投資するときは、利益や配当、PERなどの指標が重要な判断材料になります。一方、スタートアップへの投資では、それだけで企業価値を判断することはできません。創業間もない企業の多くは、利益を最大化することよりも、市場で競争優位を築くことを優先する段階にあるからです。
例えば、新しい市場を開拓する企業であれば、プロダクト開発や人材採用、営業体制の構築などへ積極的に投資します。その結果、一時的に赤字が拡大することもありますが、その投資によって顧客基盤や独自技術、ネットワーク効果といった競争優位が積み上がれば、将来的に利益を生み出せる事業へ成長する可能性があります。投資家が見ているのは、現在の利益ではなく、「その投資が将来どのような価値を生み出すのか」という点です。
もちろん、赤字であれば評価されるわけではありません。市場は十分に成長するのか、競争優位を築けるビジネスモデルなのか、調達した資金で何を実現しようとしているのか。投資家はこうした要素を総合的に見ながら、その会社の将来性を判断しています。

この記事で注目したいのは、「赤字だから良い」「黒字だから安心」といった結果ではありません。
現在では黒字化を達成した企業を振り返り、「どのような投資を行い、どのように利益を生み出せる祖業を育てていったのか」を検証することに意味があります。その共通点を知ることができれば、現在資金調達を行っているスタートアップを見るときも、「赤字か黒字か」という結果だけではなく、「この会社は何を積み上げようとしているのか」という視点でニュースを読めるようになるはずです。
スタートアップが赤字でも資金調達できる理由や、黒字化までの仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
Fundriveが企業分析で見る6つの視点
以前の私は、資金調達リリースや経営者インタビューを読み、「経営者はどんな未来を語っているのだろう」と考えることが企業分析の中心でした。
もちろん、それも大切です。しかし、メルカリ、Sansan、タイミーの歩みを調べる中で、それだけでは企業の本質は見えてこないことに気付きました。
同じメッセージでも、市場環境や競争状況、ビジネスモデルを理解したうえで読むのと、何も知らずに読むのとでは、受け取り方が大きく変わります。経営者の言葉は、その会社がどのような市場で戦い、どのような競争優位を築こうとしているのかを理解して初めて、本当の意味が見えてくるからです。
そこで現在、Fundriveでは資金調達ニュースを読む前に、まず企業そのものを次の6つの視点で整理するようにしています。
| 視点 | Fundriveが見るポイント |
|---|---|
| 🌍 市場 | 市場は十分に大きく、今後も成長する可能性があるか |
| 🏢 既存プレイヤー | 誰と競争しているのか。本当の競争相手は誰か |
| 🔄 何を置き換えるのか | これまでのどんな仕組みや常識を変えようとしているのか |
| 💰 ビジネスモデル | 将来的にどのような形で利益を生み出すのか |
| 🚀 競争優位 | 他社ではなく、その企業が選ばれる理由は何か |
| 🎯 経営者が描く未来 | 調達した資金を使って、どんな未来を実現しようとしているのか |
この順番にしているのには理由があります。
経営者が描く未来だけを読んでも、その戦略が実現できるかどうかは判断できません。しかし、市場や競争環境、ビジネスモデルを理解したうえで読むと、「なぜ今この事業なのか」「なぜ投資家は資金を託したのか」が少しずつ見えてきます。
今回紹介する3社も、この6つの視点で見ていくと、事業内容はまったく異なるにもかかわらず、「利益を生み出せる祖業を育てる」という点では共通した考え方があったことに気付かされます。
黒字化を達成した3社を分析する
ここからは、実際に黒字化を達成した3社を見ていきます。
今回取り上げるのは、メルカリ、Sansan、タイミーです。業界もビジネスモデルも異なりますが、いずれも創業初期は積極的な投資を続け、一時的には赤字を計上しながら成長してきました。そして現在では、それぞれの市場で大きな存在感を持つ企業へと成長しています。
この記事で注目したいのは、「いつ黒字化したのか」という結果ではありません。各社がどのような市場を選び、何を置き換えようとしたのか。そして、どのような競争優位を築き、利益を生み出せる祖業へ育てていったのか。その過程を比較することで、「赤字だった会社が黒字になった」という単純なストーリーではなく、企業が成長していくプロセスそのものが見えてきます。
また、3社を並べてみると、「祖業が強い会社」と一言で言っても、その強さの源泉はそれぞれ異なることが分かります。メルカリはネットワーク効果、Sansanは業務インフラ、タイミーは採用プロセスを変えるユーザー体験。それぞれ異なる競争優位を築きながら、利益を生み出せる事業基盤へと成長していきました。
ぜひ、「どの会社が一番優れていたか」ではなく、「なぜ祖業が利益基盤へ育ったのか」という視点で読み進めてみてください。その違いを比べることが、このあと登場する「3社の共通点」を理解するヒントになります。
メルカリ|フリマサービスという強い祖業が、次の挑戦を支えた
メルカリがサービスを開始した2013年、中古品を売買する市場そのものはすでに存在していました。リユースショップやahoo!オークションなど、不要品を売る方法はいくつもあり、決してゼロから市場を作った会社ではありません。しかし、多くの人にとって中古品を売ることは、まだ日常的な行動ではありませんでした。出品の手間や発送の負担も大きく、「売るくらいなら捨てた方が早い」と考える人も少なくなかった時代です。
メルカリが変えようとしたのは、中古品市場そのものではなく、「中古品を売る体験」でした。スマートフォンで写真を撮ってすぐに出品できる操作性や匿名配送の仕組みなどによって、これまで売り手ではなかった人まで市場へ取り込み、個人間売買のハードルを大きく下げていきます。競争相手は他のフリマアプリではなく、リユースショップやネットオークション、さらには「捨てる」という選択肢まで含めた、中古品流通のあり方そのものだったと言えるでしょう。
メルカリのビジネスモデルは、取引が成立するたびに販売手数料を受け取るマーケットプレイス型です。このモデルでは、利用者が増えるほど出品数が増え、出品数が増えるほど購入者も集まり、さらに利用者が増えるというネットワーク効果が働きます。一度この循環が回り始めると強い競争優位になりますが、その状態に到達するまでには広告投資やプロダクト開発、人材採用などへ継続的に投資する必要があります。そのため、創業初期に利益よりも利用者の拡大を優先したことは、このビジネスモデルを考えれば極めて合理的な経営判断だったと言えます。

決算を見ると、売上高は一貫して右肩上がりで成長しています。一方、営業利益は赤字と黒字を行き来しており、この数字だけを見ると「利益が安定しない会社」という印象を持つかもしれません。しかし、その背景まで見ると、まったく違う景色が見えてきます。
国内フリマ事業は利用者数や流通取引総額(GMV)を着実に伸ばし、早い段階から利益を生み出せる事業へ成長していました。一方で、会社全体ではアメリカ事業やメルペイを中心としたFintech領域へ積極的な投資を続けていたため、連結では赤字となる時期もあります。つまり、会社全体が赤字だったからといって、祖業まで赤字だったわけではありません。利益を生み出せる祖業があったからこそ、その利益を次の成長領域へ再投資するという経営判断ができたのです。
実際に、2021年6月期には連結営業利益が黒字へ転換した後、2022年6月期には再び成長投資によって営業赤字となりました。しかし、2023年6月期には国内事業の収益拡大と投資効率の改善によって営業利益は160億円まで拡大しています。この流れから分かるのは、「黒字になったから投資をやめた」のではなく、利益と成長投資のバランスを取りながら企業価値を高めてきたということです。
メルカリは現在では誰もが知る企業ですが、私が資金調達ニュースを読むときに意識しているのは、「有名な会社かどうか」ではありません。
この祖業は、将来も利益を生み出し続けられるだろうか。その問いを持ちながら事業を見るようにしています。
市場規模が大きいことだけが強みではありません。たとえニッチな市場でも、顧客から継続的に選ばれる理由があり、他社には簡単に真似できない競争優位を築けるのであれば、その事業は会社を支える利益基盤へ成長する可能性があります。
メルカリを振り返って改めて感じるのは、黒字化そのものではなく、利益を生み出せる祖業をいかに早く育てられるかが、その後の挑戦を支える土台になっていたということです。
Sansan|祖業を収益化し、新規事業へ再投資
Sansanというと、「法人向け名刺管理サービス」というイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、同社が創業当初から解決しようとしていた課題は、名刺をデジタル化することではありませんでした。
2000年代後半、多くの企業では営業担当者が交換した名刺を個人で管理していました。顧客情報は紙の名刺やExcel、担当者個人の記憶に分散し、異動や退職があるたびに会社の資産が失われていました。CRM(顧客管理システム)は存在していたものの、営業現場で十分に活用されている企業は決して多くありませんでした。
Sansanが置き換えようとしていたのは、「紙の名刺」ではありません。営業情報が個人に閉じてしまう働き方そのものです。名刺をデータ化することは目的ではなく、企業全体で顧客情報を蓄積し、営業活動に活用できる仕組みをつくることが本当の狙いでした。そのため競争相手は、他の名刺管理サービスだけではありません。紙の名刺やExcel、属人的な営業管理そのものが、Sansanにとって置き換えるべき対象だったのです。
Sansanのビジネスモデルは、法人向けSaaSです。契約企業から月額利用料を受け取るストック型の収益モデルであり、契約企業が増え、継続利用されるほど売上が積み上がっていきます。一方で、このモデルは創業直後から利益が出るものではありません。営業体制の構築やプロダクト開発への投資が先行し、契約企業を積み重ねることで初めて利益基盤が形成されます。だからこそ、Sansanも創業初期は利益よりも顧客基盤の拡大を優先し、「営業情報を管理するならSansan」というポジションを築くことに投資を続けました。

決算を見ると、会社全体では長く成長投資が続いています。しかし、その内訳を見ると、祖業であるSansan事業は着実に収益性を高め、利益を生み出せる事業へと成長していました。その利益基盤があったからこそ、新たな成長領域へ投資する余力が生まれます。
その代表例が、請求書受領サービスのBill Oneです。一見すると名刺管理とは異なる事業に見えますが、「企業の情報をデータ化し、業務を効率化する」という視点で見ると、Bill Oneは祖業の延長線上にあります。営業情報を管理する仕組みから、企業活動全体の情報を管理する仕組みへと事業領域を広げた結果であり、突然始まった新規事業ではありません。
私は資金調達ニュースを見るとき、「このサービスは便利そうか」ではなく、**「企業にとってなくてはならない存在になれるだろうか」**という視点を持つようにしています。
便利なサービスは数多くあります。しかし、業務の中に深く入り込み、「これがなければ仕事が回らない」と思われる存在になれば、継続的な収益基盤を築きやすくなります。
Sansanを振り返ると、名刺管理という一つの機能を提供していた会社ではなく、企業活動を支える業務インフラを目指したからこそ、祖業を利益基盤へ育て、その先のBill Oneという新たな成長につなげることができたのではないでしょうか。タイミー|採用プロセスそのものを置き換え、祖業を育てた会社
タイミーは「スキマバイトアプリ」として知られています。しかし、創業当初から同社が解決しようとしていたのは、「短時間で働けるサービスがない」という課題ではありませんでした。
従来のアルバイト採用では、求人を掲載し、応募を受け、面接を行い、採用が決まって初めて働き始めるという流れが一般的でした。この仕組みは長期雇用には適していますが、「今日だけ人手が足りない」「数時間だけ働きたい」というニーズには十分対応できません。企業にも働く人にも需要はあるにもかかわらず、その間をつなぐ仕組みが存在していなかったのです。
タイミーが置き換えようとしたのは、求人サイトそのものではありません。時間と手間がかかる採用プロセスです。面接を前提としない仕組みや、働いた実績が評価として蓄積される仕組みを取り入れることで、「今すぐ働いてほしい企業」と「今すぐ働きたい人」を素早く結び付けました。従来の採用活動をより効率的な仕組みへ置き換えたことが、タイミー最大の価値だったと言えるでしょう。
ビジネスモデルは、企業から手数料を受け取るマーケットプレイス型です。利用企業が増えるほど働き手が集まり、働き手が増えるほど企業にとっての利便性も高まるという循環が生まれます。このネットワーク効果を育てるためには、創業初期は利益を追うよりも、利用企業と働き手の双方を増やすことが重要になります。タイミーが赤字を抱えながらも積極的な投資を続けた背景には、このビジネスモデルの特性がありました。

決算を見ると、売上は急速に拡大しながらも、創業初期は成長投資が続いていました。しかし、利用企業数や流通額の増加とともに利益基盤は着実に強化され、黒字化へと近づいていきます。ここで注目したいのは、「赤字から黒字になった」という結果ではなく、採用プロセスを置き換える仕組みそのものが競争優位となり、祖業が利益を生み出せる事業へ育っていったことです。
近年では、スポットワークに加え、長期就業やキャリア形成を支援する取り組みも進めています。一見すると事業領域を広げているように見えますが、「働く機会を増やる」「働いた実績を信用として蓄積する」という考え方は、創業当初から一貫しています。祖業で築いた基盤があるからこそ、新たな挑戦へ踏み出せているのです。
私は資金調達ニュースを読むとき、「利用者は増えているだろうか」という数字だけではなく、**「その会社は、今まで当たり前だった仕組みを本当に置き換えられるだろうか」**という視点を意識しています。
市場が大きいことよりも重要なのは、その会社にしか実現できない価値があるかどうかです。タイミーの場合、それは求人を掲載するサービスではなく、採用プロセスそのものを変えたことでした。その競争優位が利益を生み出せる祖業へと育ったからこそ、現在の成長につながっているのだと思います。
3社の共通点から考える「良い赤字」と「悪い赤字」
こここまで見てきたメルカリ、Sansan、タイミーは、事業内容もビジネスモデルもまったく異なります。メルカリは個人間売買のマーケットプレイス、Sansanは法人向けSaaS、タイミーはスポットワークのマッチングサービスです。同じスタートアップという括りで語られることも多い3社ですが、挑戦している市場も、競争相手も、それぞれ大きく異なります。
それでも、黒字化までの歩みを振り返ると、共通していたことがありました。
3社とも創業初期は利益よりも成長を優先し、積極的な投資を続けています。しかし、その赤字は単に利益が出ていなかったという話ではありません。競争優位を築くために投資を行い、その結果として利益を生み出せる祖業を育てていたという点で共通していました。
黒字化はゴールではなく、その祖業が利益を生み出せるようになった一つの通過点です。そして、その利益を次の事業や市場への投資へ回すことで、新たな成長を生み出していく。この循環を作れていたことが、3社に共通する特徴でした。
一方で、「祖業が強い」と一言で言っても、その強さの源泉はそれぞれ異なります。メルカリはネットワーク効果、Sansanは企業活動を支える業務インフラ、タイミーは採用プロセスそのものを変えるユーザー体験と信用の蓄積。それぞれ異なる方法で競争優位を築きながら、利益を生み出せる事業へと成長していきました。
ここまでの内容を整理すると、3社には次のような共通点が見えてきます。
| 黒字化した3社に共通していたこと | なぜ重要なのか |
|---|---|
| 利益を生み出せる祖業を育てていた | 成長を支える土台になっていたため |
| 競争優位が明確だった | 他社との差別化につながっていたため |
| 資金使途が具体的だった | 調達資金が将来の成長投資に使われていたため |
| 顧客・利用者が継続的に増えていた | 市場から継続的に支持されていたため |
| 利益を次の成長へ再投資していた | 持続的な成長につながっていたため |
もちろん、この表に当てはまる企業が必ず成功するわけではありません。市場環境や競合、経営判断など、企業の未来を左右する要素は数多くあります。
しかし、今回取り上げた3社を振り返ると、共通していたのは「赤字だったこと」ではなく、赤字の期間に何を積み上げていたのかでした。
だから私は、資金調達ニュースを見るときも、「赤字だから危ない」「黒字だから安心」と考えることはありません。
それよりも、その会社はどのような競争優位を築こうとしているのか。祖業は利益を生み出せる事業へ育ちそうか。そして、その利益を次の成長へ再投資できる会社になりそうか。
そうした視点で企業を見ることで、資金調達ニュースは単なる資金調達の事実ではなく、その会社の未来を考えるための材料へと変わっていきます。
資金調達ニュースをどう読み解くか
ここまで、メルカリ、Sansan、タイミーの3社を振り返りながら、黒字化までの過程を見てきました。
もちろん、今回取り上げた3社が成長したからといって、現在資金調達を行っているスタートアップも同じ未来を歩むとは限りません。市場環境も競争相手も異なり、未来を正確に予測することは誰にもできないからです。
それでも、過去を振り返る意味はあります。
今回3社を分析して見えてきたのは、「赤字だった会社が黒字になった」という結果ではありません。競争優位を築き、利益を生み出せる祖業を育て、その利益を次の成長へ再投資していくという共通したプロセスでした。
だから私は、新しく資金調達ニュースを見るときも、「いくら調達したのか」という金額だけでは判断しません。その会社はどんな市場に挑戦し、何を置き換えようとしているのか。そして、その挑戦は将来、利益を生み出せる事業へ育っていくのか。そんな視点で企業を見るようにしています。
具体的には、次の5つを意識しています。
① 市場は中長期的に成長するのか
市場規模だけではなく、社会課題や制度の変化など、中長期的な追い風があるかどうかを確認します。どれほど優れたプロダクトでも、市場そのものが広がらなければ成長には限界があります。
② 何を置き換えようとしているのか
「何を作っている会社か」ではなく、「これまでの何を変えようとしている会社なのか」を考えます。メルカリは中古品を売る体験を、Sansanは営業情報の管理を、タイミーは採用プロセスそのものを変えようとしました。この視点を持つだけで、その会社が本当に狙っている市場や競争相手が見えやすくなります。
③ 利益を生み出せる祖業になりそうか
今回の記事を通して、私が最も重要だと感じた視点です。市場が大きいことよりも、その会社ならではの競争優位があるかどうか。ニッチな市場であっても、顧客から継続的に選ばれる理由があり、利益を生み出せる仕組みが見えてくるなら、その祖業は将来の成長を支える土台になる可能性があります。
④ 調達した資金は何に使われるのか
資金調達リリースには、「採用を強化する」「プロダクト開発を進める」「営業体制を拡充する」といった資金使途が書かれています。重要なのは、その投資が競争優位を強くするためのものなのか、それとも一時的な事業拡大にとどまるのかを考えることです。
⑤ 数か月後、もう一度その会社を見に行く
私は、資金調達ニュースを一度読んで終わりにはしません。半年後、一年後にもう一度その会社を見て、採用は進んだのか、導入企業は増えたのか、新しいサービスは市場に受け入れられたのかを確認するようにしています。その変化を追いかけることで、資金調達時に描いていた未来へ近づいているのか、それとも戦略を修正しているのかが少しずつ見えてきます。
もちろん、この5つを確認したからといって、その会社の未来が分かるわけではありません。
しかし、「赤字か黒字か」という結果だけではなく、「今、何を積み上げようとしているのか」という視点を持つだけで、資金調達ニュースの見え方は大きく変わります。
一つひとつのニュースを点で終わらせず、数年という時間軸で線として追いかけていく。その積み重ねが、スタートアップを見る目を少しずつ養ってくれるのだと私は考えています。
まとめ
スタートアップの資金調達ニュースというと、「〇億円を調達した」という金額に目が向きがちです。しかし、その数字だけでは、その会社の本当の価値は見えてきません。
今回取り上げたメルカリ、Sansan、タイミーも、創業当初から利益を出していたわけではありませんでした。それぞれが市場の課題に向き合い、自社ならではの競争優位を築き、利益を生み出せる祖業を育て、その利益を次の成長へ再投資することで現在の姿へと成長してきました。
もちろん、未来は誰にも分かりません。シリーズAやシリーズBの時点で、「この会社は必ず成功する」と断言することはできませんし、今回紹介した3社も、当時から現在の姿が約束されていたわけではありません。
それでも、過去を振り返ることで見えてくるものがあります。
3社に共通していたのは、赤字だったという事実ではなく、その期間に競争優位を築き、利益を生み出せる祖業を育てていたことでした。そして、その祖業が次の挑戦を支え、さらに新しい成長へつながっていったのです。
だから私は、資金調達ニュースを見るときも、「調達額はいくらだったのか」という結果より、「この会社は何を置き換えようとしているのか」「祖業は利益を生み出せる事業へ育ちそうか」という視点を大切にしています。その答えは、資金調達の当日に分かるものではありません。数か月後、あるいは数年後に企業の歩みを振り返ることで、少しずつ輪郭が見えてきます。
資金調達ニュースは、単なるお金のニュースではありません。未来への宣言です。
経営者は、その資金を使ってどんな市場を変えたいのか、どんな課題を解決したいのかを投資家へ示し、投資家はその未来に期待して資金を託します。その時点では、誰にも未来は分かりません。
だからこそ、本当に価値があるのは、そのニュースを数年後にもう一度読み返すことです。当時の経営者が描いていた未来は、どこまで実現したのか。市場はどう変わったのか。そして、その会社は何を守り、何を変えながら成長してきたのか。その答え合わせを繰り返すことで、企業を見る目は少しずつ養われていきます。
Fundriveでも、これからは「〇億円を調達した」という事実だけではなく、その背景にある市場の変化や経営判断、そして企業の成長を継続して追いかけていきます。
今日の資金調達ニュースは、未来を約束するものではありません。
しかし、未来を考えるための最高の教材にはなる。
私は、そう考えています。
もっと知りたい方へ
今回の記事では、メルカリ、Sansan、タイミーの3社を振り返りながら、「利益を生み出せる祖業はどのように育っていくのか」という視点で企業を分析しました。
もし興味を持っていただけたなら、ぜひ各社の資金調達リリースや決算資料も読んでみてください。
「何を置き換えようとしていたのか」
「どんな競争優位を築こうとしていたのか」
「調達した資金を何に使おうとしていたのか」
そんな視点で読み返すと、当時は何気なく読んでいた資金調達ニュースが、まったく違って見えてくるはずです。
そして、もう一つおすすめがあります。ぜひ、現在資金調達を行っているスタートアップも、同じ視点で見てみてください。
未来を予測することはできません。しかし、「何を置き換えようとしているのか」「どのような競争優位を築こうとしているのか」「利益を生み出せる祖業へ育ちそうか」という問いを持ちながら企業を追いかけることで、資金調達ニュースは一つの出来事ではなく、企業の成長を追いかけるストーリーへと変わっていきます。
Fundriveでも、これからは資金調達額だけではなく、市場の変化やビジネスモデル、経営判断まで掘り下げながら、その後の成長も継続して追いかけていきます。

